清閑之歓 ―波間に憩う―

 

 伊勢湾に浮かぶ人工の島に、中部地方の表玄関として長い年月をかけて造られた新空港、中部国際空港(通称セントレア)があります。鈴鹿山脈から高見山地へと続く山並みを背景に、青くゆったりとした海が横たわり、色とりどりの船が音もなく波間に浮かんでいます。そんな美しい風景に囲まれながら、一筋の光跡を描いて大空に飛び立って行く旅客機を眺めていると、いつしか遠い世界へ心が運ばれて行きます。

 紗羅餐さんにとって、はじめての支店となるお店は、その空港施設、旅客ターミナルビル4階のスカイタウンにあります。計画を進めるにあたり、オーナーの服部さんやスタッフの方々から、多くのことを聞かせていただきました。その中で一番印象に残っていることは、本物であることへのこだわりでした。とかく効率や便利さを優先して機械に頼ってしまう時代にあって、あくまでも手打ちにこだわり、ひとつひとつの蕎麦に心を込め、蕎麦本来のおいしさを充分に楽しんでもらいたいという紗羅餐さんの信条が印象的でした。

 そこで、これから旅をされる方々に、こだわりの蕎麦を心ゆくまで楽しんでいただき、出発時刻までのひと時を、ゆっくりと過ごしていただくための場になるような待合風の空間を考えました。

 まず、お店の中心には、一枚の無垢板で作られた大テーブルを置き、周囲にはカウンター席やテーブル席あるいは個室を配し、それぞれの室礼をゆっくり楽しんでいただけるようにしました。

また、テーブルやカウンターに使用された木材は、本店で使われていたアフリカ原産のブビンガという木を使用しました。重く堅く、そして力強い木目のブビンガは、まさに紗羅餐さんの姿勢をあらわしているようでもありました。

 そこで、そのブビンガの存在感を受け止めることのできる新たな素材として、錆びついた鉄を選びました。大地からのみなぎる力強さ、内に秘められた体温、自然と共に変化して行く柔軟さ。そこに「紗羅餐らしさ」を託せるように思えました。

 使用された材料は、けっして和風の材料ではありませんが、もてなしの心を大切にする和の精神につつまれ、ゆったりとした時間が流れる空間になればと思いました。

 最後に、床に使われた石は玄晶石といいます。その石の表情から海の波に見立てました。

静かな波間に佇みながら、こころやすらかなひと時をすごしていただければと願っています。